小説家、劇作家、放送作家、エッセイストであり、
文化功労者、日本藝術院会員。
75歳で亡くなるまで、
自らの雅号を遅筆堂と名乗るほど、筆が遅いのに、
数多くの作品を世に送り、
それがことごとく、高い評価を得ています。
Wikipediaを見たら、
家庭の事情で、高校・大学まで孤児院で育ったというのだから、
自らの人生そのものが、波乱万丈の戯曲です。
よく知られている作品は、
ひょっこりひょうたん島、忍者はっとりくんの脚本、
ムーミン、ひみつのアッコちゃんのテーマ曲作詞
などなど、
歴史上の人物の伝記的な戯曲もたくさん書いていて、
つい先日、石川啄木をテーマにした
「泣き虫なまいき石川啄木」
という本を読みました。(昭和61年、新潮社)
題名だけを見て、
啄木の全体を短い言葉で捉えていることに感心してしまいます。
幕開きはこんなふうに始まります。
1.事ありげな初夏の夕暮
客席が暗くなると同時に音楽が聞えてくる。やがてその音楽を掻き分けるやうにして六つか七つの女の子(石川京子)の歌声がぐんぐん近づいてくる。
(略)
舞台には誰もゐない。女の子が海の方へ歩いて行きながら、まだ続きを歌ってゐるのがきこえる。もつとも今度は品の悪い替歌で、我は蚤 の子、虱 の子、さわぐ布団のまんなかで・・・・・。(以下略)
この場面は、啄木の死後、啄木の妻節子が啄木の遺児京子を連れて、房総に身を寄せた時の状況を、
もちろんフィクションで描いているもの。
物語はここから、回想シーンに移り、
啄木の闘病生活などを描いていくのですが、
ラスト・シーンは、
啄木が遺した日記のこと、
啄木は生前、日記は焼却するようにと言い遺したのですが、
妻節子は、この日記を整理しているうちに、
これは焼いてしまってはいけないモノ、
「この日記の中には、夫がいて、父や母、子どももいて、何よりも、自分自身が息づいている・・・」
「もう一度、夫に叛く・・・」
と岩手弁で叫んでいるところに、
冒頭の替え歌の声が聞こえて、幕が下りる。
井上ひさしさんの作品を
たくさん読んでいるわけではないんだけど、
この1冊をとってみても、
新聞やテレビで紹介されている井上さんの人物評、
『文体は軽妙であり言語感覚に鋭い・・・』
というのが、納得できます。
ところで、
現代の子どもたちって、替え歌を歌うのでしょうか?
私の子どものころは、よく歌ったものです。
「お手テンプラ、つないデコチャン、
野道をゆけババチャン・・・」
などはまだ程度がいいほうで、
得てして替歌って、下品なものが多いようで、
そうした歌も大声で歌っていたような気がします。
井上作品しか上演しないという劇場(こまつ座)もあり、
永く、繰り返し読まれる脚本、
作家冥利ですね。
2009年に上演された組曲虐殺が遺作、
小林多喜二の評伝劇です。
楽天ブックス【予約】 組曲虐殺
「泣き虫なまいき石川啄木」は新刊ではなかなか手に入らないと思いますが、ヤフー・オークションなどに、ときどき出品されています。
天国で、
ひょっこりひょうたん島の住人たちや、
ムームンやアッコちゃんたちと
歌を歌っていることでしょう。